自己啓発

『得意なことの見つけ方』書評|自己分析に疲れたあなたへ、行動から強みを発見する方法


「自分の得意なことって何だろう?」「本当にやりたいことを見つけたいけど、どうすればいいか分からない…」

多くの人が一度は抱く、これらは漠然とした問いである。書店には自己分析に関する書籍が溢れ、SNSでは「自分探し」の旅に出た人々の投稿を目にする。私もかつてはそうだった。過去を掘り起こし、自分の特性を分析し、あれこれと思考を巡らせる。しかし、どれだけ考えても明確な答えは見つからず、むしろ混乱と疲労だけが残る…そんな経験はないだろうか。

今回ご紹介する書籍『得意なことの見つけ方』は、そんな従来の「自己分析」の常識に真っ向から異を唱え、私たちを思考の迷宮から解放してくれる一冊である。本書が提唱するのは、内省に囚われず、未来志向の「行動」と「他者からのフィードバック」を通じて、真に自分らしい「得意なこと」を発見するという、目から鱗のアプローチだ。この本を読み終えた時、私はまるで深い霧が晴れ、目の前に新しい道が拓けたような感覚を覚えた。

自己分析では得意なことは見つからない理由

「深く自己分析すれば、いつか答えが見つかるはず」。そう信じて疑わなかった私にとって、本書の冒頭の指摘は衝撃的であった。本書は、行き過ぎた自己分析を

自己分析は、消化に悪い食べ物のようなもの

澤 円. 得意なことの見つけ方 自分探しにとらわれず、すぐに行動できる技術 (角川書店単行本) (p.5). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

だと例え、その危険性を明確に示している。確かに、私自身の経験を振り返ってみても、自分の過去の経験や感情を深掘りするほど、出口の見えない思考のループにはまっていくことが少なくなかった。

考えること自体は決して悪いことではない。しかし、本書が警鐘を鳴らすのは、過度な思考が陥る状態である。

マインドがさらに深刻モードになり、思考が狭く、重たくなってしまう。そうして自分と向き合うことがますますつらくなり、自己分析がしんどいものになってしまう面があるでしょう。

澤 円. 得意なことの見つけ方 自分探しにとらわれず、すぐに行動できる技術 (角川書店単行本) (p.4). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

具体的には、

シートやノートに自分の過去の経験などを書き込みながら、うんうんと考え込んで、深みにはまってしまうあのイメージです。

澤 円. 得意なことの見つけ方 自分探しにとらわれず、すぐに行動できる技術 (角川書店単行本) (p.5). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

このような状況は、多くの人が経験しているのではないだろうか。そうして身動きが取れなくなった結果、結局何も行動できずに時間だけが過ぎ去ってしまう。本書のこの指摘は、まさに私の心を見透かされているようであった。

では、どうすればこの思考の罠から抜け出せるのか?本書が提示するのは、従来の自己分析とは真逆の視点である。それは、

周囲の状況をきちんと「観察」し、ものごとを最初から決めてかかるのではなく、とりあえず小さな「行動」をする。失敗したらそのときに対処法を考える。しんどい日は堂々と立ち止まり、嫌でなければとりあえず続けてみる。自己分析や自分探しで疲弊するのではなく、どこまでも軽やかに自分を扱いながら進んでいけばいいのです。

澤 円. 得意なことの見つけ方 自分探しにとらわれず、すぐに行動できる技術 (角川書店単行本) (p.7). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

というもの。つまり、私たちは「考える人」であると同時に、「行動する人」でなければならないのだ。過去を振り返り、内側に問いかけ続けるのではなく、とりあえず一歩を踏み出す。このシンプルな転換が、私たちの「得意なこと」を見つける旅を大きく加速させる鍵であると、本書は力強く説いている。

小さな行動から得意を見つける実践法

「でも、具体的に何をすればいいの?」「やりたいことが見つからないのに、どう行動すればいいの?」そう感じる人もいるかもしれない。本書は、そんな私たちに「ゆらぎ」という概念を提示する。これは、具体的な目的が不明確であっても、まずは小さな行動を起こしてみることである。

この「ゆらぎ」の概念は、私にとって非常に新鮮で、同時に腑に落ちるものであった。私たちは完璧な計画や明確な目標がなければ行動できないと思いがちである。しかし、本書は明確に否定する。

繰り返しますが、大胆な行動は必要ありません。  むしろ自分に〝ゆらぎ〟をつくる行動を続けていくことが大切です。  自分の「得意なこと」になんとなく気づいたり、「やりたいこと」のイメージがぼんやりと現れてきたりするそのときまで、自分に〝ゆらぎ〟をつくり続けていくのです。

澤 円. 得意なことの見つけ方 自分探しにとらわれず、すぐに行動できる技術 (角川書店単行本) (p.30). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

このように自然でゆるやかな動きから始めることを奨励する。

海のなかで〝ゆらぐ〟クラゲやワカメのように

澤 円. 得意なことの見つけ方 自分探しにとらわれず、すぐに行動できる技術 (角川書店単行本) (p.30). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

と例えており、この比喩は私の中の「完璧主義」という重荷をそっと下ろしてくれるような感覚であった。目的がはっきりしていなくても、まずは動いてみる。その小さな「ゆらぎ」が、予期せぬ大きな波紋を生み出す可能性があることを本書は教えてくれる。

そして、その「ゆらぎ」から生まれた行動の多くは、実は熟考の末に行われるものではなく、直感やひらめきに基づいていると本書は指摘する。私自身も、過去に成功した経験を振り返ると、論理的に考え抜いたものよりも、直感的に「これをやってみよう!」と飛び込んだものの方が、思わぬ成果につながったケースが多々ある。

さらに重要なのは、行動がもたらすフィードバックである。本書は、

ここでのポイントは、行動することで貴重な情報(インプット)が増えていくということです。しかも、それは誰もがフラットにアクセスできる情報ではありません。自分で行動するからこそ、自分だけに向けた情報がどんどん増えていくのです。

澤 円. 得意なことの見つけ方 自分探しにとらわれず、すぐに行動できる技術 (角川書店単行本) (p.30). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

と説明している。この「ポジティブな反応」こそが、私たちが自身の「得意なこと」を発見する上で不可欠な手がかりとなるのだ。著者の具体的な経験談も非常に説得力があった。苦手意識のあったプレゼンテーションが、周囲からのポジティブな反応によって実は「得意なこと」であったと気づいたというエピソードは、私たち自身の盲点に気づかせてくれる。自分では「苦手だ」と思っていることが、実は他者から見れば「素晴らしい」と評価されている可能性は、確かにある。

「やりたいことがわからない」、「すぐに行動できない」という悩みを抱える人は少なくない。私もまさにそうであった。しかし本書は、そんな時こそ

(前略) 「なにが怖いのだろう?」「なにが起こるのを恐れているのだろう?」と、自分の気持ちを掘り下げていくプロセスが必要になるでしょう。なかなか動けない自分に〝ゆらぎ〟を与えるというのは、このようにまるで誰かをどこかに連れ出すように、なかなか外に出ていかない自分自身を誘い出すイメージです。

澤 円. 得意なことの見つけ方 自分探しにとらわれず、すぐに行動できる技術 (角川書店単行本) (p.111). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

という内省を行い、行動への一歩を踏み出すことを促す。このプロセスは「まずは少しだけやってみよう」という気持ちにさせてくれる、非常に効果的なテクニックだと感じた。

フィードバックで見つける本当の強み

自己分析の限界を指摘し、行動の重要性を説く本書が、おすすめしているのが、

(前略) 第三者の客観的な視点を参考にすると、案外「得意なこと」に気づきやすくなる側面があります。

澤 円. 得意なことの見つけ方 自分探しにとらわれず、すぐに行動できる技術 (角川書店単行本) (p.44). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

これは、私が本書を読んで最も感銘を受けた点の一つである。「得意なこと」は、自分一人で深く考えるだけでは見つけにくい。なぜなら、私たちが当たり前のように行っていること、努力を要せず自然とできてしまうことは、自分自身ではその価値に気づきにくいからである。

「自分では当たり前」だと思っていることが、他者によって価値あるものとして認識され、ポジティブなフィードバックを受け取る場所を指す。そして、その最も明確なヒントが、他者からの「感謝」や「賞賛」であると本書は強調する。

(前略) 本当は「得意なこと」を持っているのに、その素晴らしさに自分で気づいていないことはよくあります。「得意なこと」というのは、周囲からの「この人はこれをやると素敵だな」「これをやると凄くいいよね」という評価が教えてくれる場合もたくさんあるのです。

澤 円. 得意なことの見つけ方 自分探しにとらわれず、すぐに行動できる技術 (角川書店単行本) (pp.44-45). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

という言葉は、非常にシンプルでありながら、本質を突いている。

私たちは、仕事や日常生活の中で、無意識のうちに誰かの役に立っていたり、誰かに喜びを与えたりしていることがある。しかし、その行為が自分の「得意なこと」だとは、なかなか認識できない。なぜなら、それは私たちにとって「自然なこと」だからである。しかし、他者からの「ありがとう」や「すごいね」という言葉は、私たちが提供した価値を最も客観的かつ正確に示してくれるフィードバックなのだ。

本書は、

(前略) 誰かに「ありがとう」といわれるものごとを数えていけば、自分の「得意なこと」をいくつも見つけることができるはずです。

澤 円. 得意なことの見つけ方 自分探しにとらわれず、すぐに行動できる技術 (角川書店単行本) (pp.44-45). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

と述べている。この言葉は、私たちの日常におけるコミュニケーションの質を変える可能性を秘めていると感じた。私たちはとかく、自分の欠点や弱点にばかり目を向けがちである。しかし、本書は、他者からのポジティブな反応、つまり私たちが他者に与えている価値に意識的に目を向けることの重要性を教えてくれる。

このフィードバックを通じて、

(前略) みなさん一人ひとりの「得意なこと」をつなげて、世の中に広くシェアしていくあり方を提案します。それは、単なる〝社会貢献〟にとどまらない、あなた自身の人生を豊かに、楽しく、幸せにしていく道だと僕は確信しています。

澤 円. 得意なことの見つけ方 自分探しにとらわれず、すぐに行動できる技術 (角川書店単行本) (p.7). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

この視点は、自分の「得意なこと」を見つけることが、単に自己満足に終わるのではなく、周囲の人々を巻き込み、社会全体にポジティブな影響を広げていく可能性を秘めていることを示唆している。自分だけが幸せになるのではなく、自分の強みを通じて他者も幸せにする。これこそが、現代社会において求められる「得意なこと」のあり方なのではないだろうか。


不確実な時代を生き抜くためのキャリア戦略

現代は、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と呼ばれる予測困難な時代である。このような環境において、かつてのような長期的なキャリアプランニングは、必ずしも有効ではない。刻々と変化する状況の中で、私たちはどのように自分の進むべき道を見定めればよいのだろうか。

本書は、このVUCA時代を生き抜くための強力なヒントを与えてくれる。それは、思考と経験の順序を逆転させ、

(前略) 「ゴールはない」と捉え方を変えてみれば、論理的には迷い続けることもなくなるはずです。ゴールがないということは、具体的には「すべて経験だ」と考えることもできます。人生の道に迷っていると思い込む人は多いですが、迷っているのではなく、いまは経験を積んでいるだけと割り切ってしまえばいいのです。

澤 円. 得意なことの見つけ方 自分探しにとらわれず、すぐに行動できる技術 (角川書店単行本) (p.125). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

というアプローチである。小さな一歩でも良いから、行動に移してみる。その小さな行動が、新たな発見やポジティブな経験を連鎖的に生み出し、やがては明確な道筋へとつながっていく。この考え方は、不確実な未来に対する不安を軽減し、「まずはやってみよう」という前向きな気持ちにさせてくれる。

そして、この行動とフィードバックのプロセスを繰り返すことは、自己を「リ・デザイン」することにつながる。自分の仕事や人生のあり方を、まるでデザイナーが作品を創り出すように、自ら設計していくという考え方である。それは固定観念にとらわれず、自身の可能性を広げていく柔軟な生き方を促し、私たちが持っている強みや経験は、一つ一つが独立したものではなく、組み合わせることで新たな価値を生み出すことができる。行動し、フィードバックを受け、自分を「リ・デザイン」し、新たな「得意なこと」を発見する。この無限のサイクルこそが、VUCA時代を力強く生き抜くための術なのだろう。

得意なことを見つけるために今すぐできること

『得意なことの見つけ方』は、単なる自己啓発書ではない。それは、私たちが「得意なこと」を見つける旅の地図を書き換えるような一冊である。完璧な計画や深い自己分析に時間を費やすのではなく、まず「行動」すること。そして、その行動によって得られる「他者からのポジティブなフィードバック」を何よりも大切にすること。これが、本書が私たちに伝えたい最も重要なメッセージである。

私たちは、頭の中で「こうあるべきだ」と完璧な形を思い描く必要はない。むしろ、少しずつ、自由に形を変えてみる。そして、その過程で周囲から得られる「いいね!」や「向いてるよ」という声に耳を傾ける。そうすることで、最も自然に、そして他者に喜ばれる自分だけの「得意な形」が見えてくる。

もしあなたが、今「得意なこと」が見つからずに悩んでいるのなら。もしあなたが、自己分析の迷路にはまり込んで身動きが取れないと感じているのなら。この『得意なことの見つけ方』は、きっとあなたの目の前を照らす一筋の光となるだろう。考えるよりも、まず行動する。そして、周囲からの温かいフィードバックに感謝する。そのシンプルなサイクルを繰り返すことで、あなたの人生は、より良いものへと進化し続けるはずである。